祖父の認知症を振り返る

祖父がなくなったのは平成7年の8月末でした。86歳でした。
今の病院に勤務するきっかけは、実を言えば祖父が病院を受診したことに始まります。それまで病院で働くなど考えもしませんでしたし、病院自体が行くのが嫌なほうだったんですが。その病院で学生をたまたま募集していたこと、病院特有の臭い(自分はこれがどうしても駄目だったんです)が、しなかったこと。(へんなきっかけですね)そして祖父が認知症になったことが一番の理由かもしれません。

祖父の発病は脳梗塞の発作後2〜3年後、年齢にして72、3歳頃でしょうか。発病の原因には脳梗塞の他に、心因的なものも多々あったと思います。家庭内不和、自分も定職につかない時期があり、いろんな心労があったと思います。
軽い物忘れから始まり、突然家を出て行ったり、優しかった性格が全く一変して短気で拒否的になってしまいました。実際にその流れは2〜3年以上にわたるものではっきりとすぐにわかるものではありません。
さっき話したのにまた同じ話をする。ちょっとした事を忘れて思い出せない。ごくごく些細なことから認知症は始まるものです。始まりが緩やかなだけに余計その変化の大きさに介護される方がついて行けず悩むのでしょう。
よく人格の変化が認知症の症状として挙げられますが、本当に変わるものですね。別人のように。病棟にも介護に対する拒否、抵抗をみせる患者さんが多数おられますが、きっと、以前は素晴らしい人格だった方も多いと思います。

認知症が進み、大工だった祖父は仕事に行くといってかなづちを1本持って何処に行くともなく出て行ったり、夕方から農作業に行こうとしたり、そんなふうに家から出て行こうとする祖父に対し、家の外から鍵をするなんて考えもしませんでしたが、実際鍵をしないと山に行って探さなければならなかったり、近所を徘徊したりとたいへんなんですね。ですから認知症病棟に鍵があることには特に抵抗は感じませんでした。
発病から5〜6年は顕著な問題行動は無かったんですが、人格の崩壊とともに多彩な症状が現れました。自宅にいながらにして家に帰ると帰宅要求、徘徊、昼夜逆転、放尿、放便など、異食や物取られ妄想はなかったんですが、それでもかなり大変でした。
それからやはりその頃は認知症に対する偏見が強かったように思います。家族が気にしなければよいことかもしれませんが・・・。今ではかなり薄れてきたとは言え、家族の中にはやはり病気を隠したい、近所に対し恥ずかしいと思われる方も実際におられます。田舎のほうだからかもしれませんが。

平成元年になってとうとう家では手に負えなくなり、少しはなれた町の精神科へ入院することになりました。当時はまだ、近場に認知症病棟もなかったんです。でも悲しかったですね。それも精神科病院に対する偏見があったのかもしれませんが・・・。
入院してすぐ祖父は大人しくなりました。最初のうちは面会に行くとどこかで転んだんでしょう。顔にあざや内出血があったり、職員に抵抗する姿も見られてたのですが、セレネース液のおかげでしょうか。ご飯にそっと薬をかけられるのを見て「ああして毒を入れよる」と祖父が話したのを忘れられません。
服は俗に言うツナギです。背中に鍵があって自分では脱ぐことが出来ません。うちの病院ではレギンスと言ってましたが今はもう抑制になるので使ってません。服の下はもちろんオムツです。薬が体に蓄積されたのか2ヶ月もすると歩けなくなってきました。面会に行っても反応もほとんどしません。
このままでは死を待つだけかもという家族の希望で退院することになりました。祖父が最後に抱えられて歩いたのは自宅に帰って来た時でした。それから意識状態は悪化し、しばらく昏睡状態が続いた後寝たきり生活となりました。それが7年近く続いたんですね。今思えば・・・。長かったと思います。

その間に叔父の勧めもありうちの病院を受診したんですが、結局入院はしませんでした。今でも、家族の方に言われることがありますが、徘徊などの問題行動のある患者さんが歩けなくなった時に喜ばれることがあります。もちろん逆のパターンもあるわけですが、家族のとり方でしょうか。自分も歩けないのが悲しいながら逆に安心感を持ったのは事実でした。家から出て行く心配がなくなったわけですから・・・。

5年ほど、市から電動ベッドを借りて自宅で生活しました。もうまともな会話は出来なくなり、時々意味のわからない大声をあげるくらいでした。内臓も強かったのでしょう。家では熱を出す事もほとんどなく、寝たきりでも落ち着いた状態でした。しかし、祖母や母たちにも時とともに介護疲れが見えてきました。保健婦の勧めもあり特別養護老人ホームへ・・・。
結局1年後に祖父は肺炎で亡くなりました。












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